佛性論(19)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破外道品第二
次に同類の因果の相い望むに約す。
自他を論ずるは、本、因と為る種子に由りて、能く芽の果を生ずれば、芽は必ず因に由るが故に名づけて果と為し、種は必ず果を生ずるが故に因と名づけるを得るなり。
この因と果、一と為るや異と為るや。
若し定んで一ならば即ち生の義無し。本已にこれ有らば復た何ぞ生を用いん。
若し定んで異ならば即ち應に異果を生ぜん。既に倶にこれ異因ならば何故にただ自果を生じて異果を生ぜざるや。
既に自他の一にして異なるは倶に不可得なれば、故に知る。自他より生ずるは倶ならざることを。
文言の二の所以も亦爾り。
故に、四の自他に依らずして生ずるは是れ無因の義となればなり。
汝、因縁に依らざる諸法の自ら有ると謂わば、即ち一切の諸法互いに能く相い生ずること、火の應に水を生ずべく、水の能く火を生ずる等まさに因縁無きが故ならん。
然らざれば因無き生の義、即ち成ずるを得ざるが故に文言に従り無因も亦然りなれば、四句の中に生相を見んことを求むるも並んで不可得なればなり。
この故に當に知るべし。決定して生無きことを。
佛性論(18)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破外道品第二
一切處の諸法 自らより生ずるを得ず
他よりも二も亦爾り 無因よりも亦然り
初めに一切處の諸法と言うは、明處に三有るなり。
一つには四生處に約す。謂わく、三界の生處及び無流界の生處にて此の四に一切の内外の處を摂し盡す。四中のあらゆる一切の諸法を摂する法をも亦摂し盡す。
二つには内道・外道に約す。一切のあらゆる法、世・出世に通じる處を皆摂し盡す。
三つには有情・無情に約す。一切の法を皆摂し盡し、三世に通じる處を摂すれば、皆盡すこと有るが故に一切處の諸法と言うなり。
次の三句、四種の因縁を以て諸法の実に生ずるを覓るも、皆不可得なればなり。
一、自らに依り。二、他に依り。三、自他倶に依り。四、自他に依らずに。
此の四句を尋ねるに、皆生の義無きが故に諸法悉く一有る性には非ざると知るなり。
自らに依りて生ずるにはあらずとは、若し自らに依り生ずれば、生即ち無用となりぬ。自ら既に有るを以っての故に、何ぞ努めてまた生ずるや。
故に文に、自らに依り生ずるを得ずと言うなり。
二、若し他依り生ずれば、何ぞ異なる果を生ぜざるや。同じく皆これ無きが故に。
故に、他依り生ずるを得ずと言うなり。
三、自他依り倶に生ずること、亦また然らず。前に異體の相続に約して自他の義を立つれば、両物相い望むが故に互いに自他と為ること、張を以って王を望むに、張即ち自と為れば王は即ち他と為る。王を以って張を望めば王は自なり張は他なり。
義亦かくの如し。此の二他の性、一と為るや異と為るや。
若し両他の性これ一ならば即ち自他の義無くなりぬ。両相い望むに有らざるが故に。
若し彼の他の義、此の他の義と異ならば、彼即ち他と成らざること他と異なる性を以っての故に。
彼の他既に他にあらざれば此の他も亦また本を失うなり。
我を望む他に依るが故に、我に他の義有らば他既に他に非ずして我、他を亦失うなり。本、他に由るが故に。
自他の義有るも既に空ならば自性の理を失わんこと、ついに何ぞ自他依り生ずるや。
故に二も亦然りと言うなり。
佛性論(17)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破外道品第二
又汝の説かく。 汝亦空と言うもこの故に一切の諸法不空なりと。なれど是の義然らず。何を以っての故に。
かくの如くの語言諸法を摂して入るが故に、語言も亦空なり。故に知る。諸法皆空なることを。
汝、語言聞くべきが故に空にあらざると説くは、この義然らず。何を以っての故に。
語言の自性不可得の故に、語言の因縁種々異なるが故に。
異相に八事有るなり。一つ覚。二つ観。三つ功用。四つ風気。五つ八處、臍・胸・喉・舌根・頂・歯・鼻・唇。六つ音声。七つ名字。八つ開閉。
此の八義を具えるが故に言声生じるを得て、語言を分別し、並びに一切諸法を摂して入るが故に知る。同じく皆これ空なることを。
又汝の言う。 汝、空の平等ならば如何が八種の因縁に於いてただ語言を生じて余の法生ぜざると説くや、と言うこの義然らず。何を以っての故に。
汝、他義の本を識らざるが故に。
若し、因縁に依らずして能く語言を出だすことを立つ人有らば、汝此の人に対して此の難を施すべし。
我今因果の決定を説かん。因縁無きにあらずして因果定まれること、因より果を生ずるが如し。
若し果、因に依らずして生ずれば即ち應に本来より果有るなり。因、果を生ぜざれば果に何の縁有るや。
因果倶に無性ならば即ち自他も同じく無し。如何が自らを生じ、他に於いて生ぜざる。自ら果を生ずれば他の果を生ぜざると為すが故に。
無性を得るにあらざれば因に由りて生ずるが故に、有と説くべからず。
他より生ずるが故に無と説くべからず。
この義を以っての故に、我因果の決定を説けば汝の難は成ぜざるなり。中論の偈に言うが如し。
佛性論(16)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破外道品第二
汝の説く瓶等の諸物更に互いに各々異なれば、瓶の衣等と異なること、この義然らず。何を以っての故に。
瓶と色等、即ち自性と為るや、自性を離れると為るや。
若し定んで即ち離るれば、義皆なるべからず。
若し一ならば即ち應に八有るべからざること、瓶と数相違するが故に一の義なりたたざるなり。
定んで異ならば、緑色即ち應に瓶となるべからざること、人、牛を縁じて曾て馬を見ざるが如し。
故に瓶等即ち自性を離れるは皆不可得なればなり。
汝、有性有るが故に諸法有り、自性空にあらざると説くは、この義然らず。何を以っての故に。
有性に自性無きが故に。有性に是れ自性有らば即ち空・有の二處を離れず。
有の中に有あらば即ち二つの有相並んで、能く用いる所無し。法既に有るを以って、何ぞ努めてまた自性となすべしや。
有の中に無ければ、なんぞ能く兎の角(兎角)、亀の毛(亀毛)等をあらしめたまわんや。
故に知る。二處立たざることを。
また次に問うて曰く。 汝自性、瓶と共に一と為ると説くや、異なると為ると説くや。
一ならば即ち應に八性有るべからず。若し八有らば、一の数即ち背かん。
異なると言わば即ち有に通じざる、すなわち無言の智なり。何を以っての故に。
汝、自性有るに由るが故に言説及び智慧生ずると言えば、今既に是れ異なるが故に、無言の説を知れるなり。
無言の説なるが故に智慧生ぜざれば、有無を即ち離れて皆不可得なるが故に、自性定んで無し。
佛性論(15)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破外道品第二
現に見る火の性定んで熱なれば水と為るべからず。
水の性定んで湿なれば火と為るべからず。
涅槃・生死も亦またかくの如く、互いの相を転じて為るべからざること、此の二法のごとき並びに自性有るが故に。
若し互いに転ぜらるれば即ち修道無用となりね。故に知る、諸法各々に自性有ることを。
此の故に不空なり。
また次に、外道を破らんが為に自性の義を應に知るべし。
難じて曰く。 汝諸法に各々自性有りて不空にして性定んで異なるを説くは、この義然らず。何を以っての故に。
自性決定して得るべからざるが故に。
決定とは、此の泰近・泰遠の八種の見るべからざる因を外れ離れることなり。
若し物定んで有らば即ち應に見えるべし。定んで無ければ即ち見えざるべし。
譬えば兎の角及び蛇の耳等の如きを、決定の智を以って道理に依りて覓るも、決して得るべからざるは定んで永く無きが故なり。
諸法の自性も亦またかくの如し。
故に知る。諸法に自性無きが故に空なることを。
佛性論(14)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破小乗執品第一
問うて曰く。 若し爾らば如何が佛、性に住せざる衆生の永く般涅槃せざるを説くや。
答て曰く。 大乗を憎み背くは是れ一闡提の因なれば、衆生をして此の因を捨てさせしめんが為の故に。
一闡提の因に随えば長時の中に滅せざる、この義を以っての故に、経この説を説くなり。
道理に依れば一切の衆生皆悉く本より清浄なる佛性有るも、永く般涅槃を得ざる者にはこの處有ること無ければ、この故に佛性決定して有ること、有るを離れ、無きを離れるが故に。
破執分第二中破外道品第二
また次に、外道佛性を知らざるが為の故に、彼の立てる義を應に知るべし。
外道有りて説かく。 一切の諸法、皆自性有り。等しく空ならざること有りて、性各々異なるが故に。
諸法悉く空にして無自性ならば、即ち水火・色心・生死・涅槃並んで自性無し。
自性既に無ければ應に火転じて水と為るべし。涅槃転じて更に生死と為るべし。何を以っての故に。
等しく無自性の故に。
佛性論(13)巻第一 天親菩薩造 真諦訳
破執分第二中破小乗執品第一
この故に我、此の性の亦また定まらざること、因に由らざるが故にこの義當に成ずべしと説くなり。
汝、定めて等しく共に無因と説くが如きは、爾らば非理の事も並んで當に成ずることを得るべし。
二つには、不平等の過失あり。
人の石女の両児の一は白、一は黒を産むと謂うが如く、亦兎に両角の一は利、一は鈍の有ると謂うが如し。
若し人因に由らざると説けば、此の不平等の義も亦當に成ずることを得るべし。
汝の所説の如きは、此れ若し成ぜざれば汝も亦立たざるなり。
三つには、外道と同じ失あり。
本有ること定めて有るや。本無きこと定めて無きや。
滅すべからざることの有るや。生ずべからざることの無きや。
これ等の過失、汝の邪執に由りて無性の義を生ずるが故に有るなり。